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2021年8月11日水曜日

スイスで安楽死の権利を得た日本人が思うこと

 

スイスで安楽死の権利を得た日本人が思うこと

 右手の指の間にはさんだタッチペンでスマートフォンに文字を打ち込む。身体が不自由な彼女と外界をつなぐのはSNSだ(画像は一部加工しています) swissinfo.ch

重い神経性疾患を持つ20代後半の日本人女性が、スイスの自殺ほう助機関で自死する許可を得た。生死に関わる病気ではないが、生活の質が著しく低い患者が豊かに生きるための「お守り」として、日本でも安楽死を認めて欲しいと感じている。

このコンテンツは 2021/01/29 13:11

「ようやく終われる」

「ようやくこれで(自分の人生を)終えられる。ほっとしたというよりもむしろ達成感でした」。そう語るのは、九州地方に住む20代後半の女性、くらんけさんだ。2019年10月、スイスの自殺ほう助団体ライフサークル他のサイトへから自死を引き受ける旨のメールを受け取ったときのことを、こう振り返る。

末梢神経に障害をきたす病気が原因で、両脚は太ももから下、両腕は右手首を除きひじから下が動かない。一人で立つこと、歩くことはできず、両親と暮らす実家で寝たきりとほぼ変わらない生活だ。介護は母親がし、移動は車いす。スマートフォンの操作は、電話をスタンドに固定しベッドに置いて、右手の指の間に挟んだタッチペンで文字を打つ。

自殺ほう助が決まったときもツイッターでつぶやき、反響を呼んだ(下記の投稿は2020年2月に再投稿されたもの)。

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6歳で神経性の難病だと診断された。幼稚園の頃から頻繁に転び、小学校の運動会で走り方がおかしいと心配した両親が病院に連れて行ったのがきっかけだった。

14歳までにあらゆる治療法をやり尽くし、20代のほとんどを入院治療に費やした。だが目立った効果はなく、主治医から完治の見込みがないことをはっきりと告げられた。

趣味を探したが、体に不自由を抱えて没頭できそうなものは見つけられなかった。自分の病気は介護認定の対象外で、月8万円の障害年金だけでは、年を重ねていく両親に余計な経済的負担を押し付けてしまうかもしれない。

生きがいが全く見出せない生活なのに、他人の世話になる。罪悪感や申し訳なさが募った。

5年ほど前から死を考えはじめた。だが首を吊ろうにも手指が動かないため、ひもをどこかに括り付けるのに誰かの手を借りなければならない。日本では自殺ほう助をした人が罪に問われてしまう。

「穏やかに合法的に死にたい」――情報を探す中で見つけたのがスイスの団体だった。

生まれ育った日本で死にたい

安楽死はオランダやベルギーなどで認められている。スイスでは70年以上前に自殺ほう助が合法化された(末尾の囲み記事参照)。国外の居住者を受け入れる団体があるのもこの国が特異たるゆえんで、毎年、多くの人が最期を迎えに国境を越えてやって来る。日本で安楽死は認められていない。

くらんけさんは、ライフサークルのウェブサイトに載っているアドレスに英語でメールを送り、担当者と連絡を取り合った。9月末に医師の診断書と自死を希望する手紙を送った。

ただそこでも、日本の法規制がハードルになった。かかりつけの大学病院からは「自殺ほう助にあたる」として診断書の提供を拒否されたのだ(swissinfo.chの問い合わせに対し、担当医師から詳細な回答は得られなかった)。代わりに診断書を書いてくれたのは、ネット上で知り合った現役の医師だった。

 横向きになり、肩を使って起き上がることはできる。かといってこの状態でできることはないという(画像は一部加工) swissinfo.ch

「本当なら生まれ育った日本で死にたい。穏やかに死ぬためになぜ遠く離れたスイスまで行かなければならないのか」。終末期なら緩和ケアという選択肢があるが、自分のような患者にはそれがない。

生死に関わる病気ではないがQOL(生活の質)が著しく悪いー。そんな患者にこそ、救済措置の1つとして「死ぬ権利」を認めてほしいと訴える。

 2018年、スイスで自殺ほう助により死亡した豪研究者デビッド・グドール氏(左)。不治の病ではなかったが、生活の質の低下を訴え、104歳で生涯を終えた AP Photo/Jamey Keaten

安楽死や死ぬ権利の是非について、日本での議論は平行線のままだ。くらんけさんは「日本では死がタブー視されすぎている」と感じている。

診断書を書いた医師は、死にたいと訴える患者でさえも生かすことを是とする医療界に違和感を抱いていたといい「安楽死の議論に一石を投じることができれば」と考え、手を貸したと話す。

正しい理解を

その中で気づいたのは、スイスの自殺ほう助に対し間違った認識が広がり、それが正しい議論の妨げになるのではないか、ということだ。

スイスで自殺ほう助を受けるには一定の条件を満たさなければならず、いざスイスに来ても、自死できるとは限らない(下記の囲み参照)。団体側も刑事事件になるのを防ぐため、非常に慎重になる。

くらんけさんは「ネット上では、お金さえ払えば簡単にすぐ死ねると思っている人がとても多いことに驚きました。もちろんお金も診断書も必要ですが、自殺ほう助団体が一番見ているのは、本人が熟慮を重ねた上で決めた選択なのか、ということだと思うんです」と話す。

どんな人が自殺ほう助を受けられるのか

家族の反対と新型コロナウイルス

家族には2019年2月に安楽死したいと打ち明けた。

両親は安楽死という選択肢自体には反対していない。「もしも私たちが娘と同じような状態になり、体が不自由なために大きな生きがいを見いだせなくなったら、おそらく同様に死にたいと思う」からだという。

「でも、親として、一生懸命育ててきた大事な大事な娘だから、死んでほしくないのです」

もともと今年3月に自殺ほう助の予約を入れていたが、渡航は延期した。物理的な協力を得られなかったこともあるが、家族の反対を振り切ってまで思いを貫くことはしたくなかったからだ。

「自分の死に他者が介入すべきではない。でも他者に迷惑をかけて死ぬのはいけない。わがままと自己決定は違う」。新型コロナウイルスの脅威が欧州を覆い始めた時期とも重なった。

スイスへの入国制限がなくなり、両親も「親のために生きてくれとは言えない。だから賛成はしないが反対もしない」と渋々ながら同意した。新たな実施日も決まったが、今度は診断書を書いてくれた医師が、京都のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者嘱託殺人事件の容疑者として逮捕・起訴された。

くらんけさんの診断書の署名に偽名が使われていたことも、のちに判明した。

ライフサークルのエリカ・プライシヒ代表に事情を説明し、自殺ほう助の権利は維持できた。必要な書類を再度集め、提出した。

死ぬ権利は誰のもの

くらんけさんは「安楽死は生きるための最大のお守り」と訴える。自分自身、出口が見えたことが支えになり、病苦に振り回され続けた人生の主導権をようやく自分が握れたと思えたという。

2019年10月、病気を理由に安楽死したベルギーのパラ金メダリスト、マリーケ・フェルフールトさんも生前、「豊かに生きるための安楽死」だと説いた。

 マリーケ・フェルフールト選手 Copyright 2016 The Associated Press. All Rights Reserved.

くらんけさんは「死なせることばかりにフォーカスしないで、患者にとって生きる糧にもなりえるんだということを知って欲しい」と話す。

2020年8月末、プライシヒ代表とテレビ電話で話し、日本での自殺ほう助合法化に向けて力になってほしいと請われた。

自殺ほう助は賛否が分かれる問題だが、くらんけさんはツイッターなどで自身の経験を多くの人に伝えていきたいという。

「考えてみて欲しいんです。死ぬ権利が、一体誰のものであるのかということを」

スイスの自殺ほう助

安楽死は、認めても良いと思いますか。それとも反対ですか。あなたの考えを聞かせて下さい。

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